6月20日に、参議院本会議で改正会社法が可決・成立しました。2015年4月に施行される見通しです。今回の会社法改正の目的は、企業統治(コーポレートガバナンス)の強化です。社外取締役の導入を促進するために、一定の会社に対して、株主総会で社外取締役を選任しない理由の説明を義務づけた他、社外取締役が過半数を占める監査等委員会を設けて経営をチェックする監査等委員会設置会社が導入されました。

専門家による会社法改正の詳解はこれから出るでしょうが、改正要綱案改正会社法の条文を読む限り、スタートアップ企業で特に問題となるのは、以下2点だと思います。 
 

■ 特別支配株主の株式等売渡請求
総株式の議決権の90%以上を有する株主は、会社の承認の下に、他の株主全員に対して、その保有する株式全部の買取を請求できる制度が創設されました(会社法179条)。スタートアップ企業の場合、ベンチャー・キャピタルからの出資は議決権の10%未満であり、創業株主が90%以上持つ場合があり得ると思います。その場合、この制度を使えば、創業株主がベンチャーキャピタルに対して、株式の買取を請求することが可能になりました。これは、例えばエクジットや経営方針に対してベンチャー・キャピタル側と齟齬が発生した時に、活用可能な制度と思われます。但し、その場合、創業株主側は、正当な対価を支払う必要があります。そして、その価格にベンチャー・キャピタル側に不満がある場合は、裁判所に対して、価格決定の申立てを行うことができます(同 179 条の8)。

■ 監査役や非業務執行取締役の損害賠償責任の軽減
取締役等は、その任務を怠ったときは、会社に対して損害賠償責任を負います(同423条)。しかしながら、社外取締役・監査役等については、故意・重過失が無い場合、その損害賠償責任を一定の額に限定する責任限定契約を会社と締結することが出来ます(同427条)。この責任限定契約を締結できる対象者が、今回の会社法改正により、非業務執行取締役や社内監査役にも拡大しました。ベンチャー企業でも取締役会設置や任意で監査役を設置する会社があります。このような場合、損害賠償責任を軽減するために、社内・社外を問わず監査役と責任限定契約を結ぶことが可能となりました(同427条)。また、ベンチャー・キャピタルや外部のアドバイザー等についても、非業務執行取締役になるのであれば(但し、多くの場合は、社外取締役であると思います。)、同じく責任限定契約の締結が可能となりました。


今回の会社法改正には含まれないですが、今後、会社法改正との関連でベンチャー企業にとって重要となるのは、上記会社法改正の趣旨と関連するコーポレートガバナンス・コードの導入でしょう。自由民主党の日本再生ビジョンでは、今回の会社法改正に加えて、成長戦略としてコーポレートガバナンス強化のために、企業統治の具体的姿を示すコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を制定するとしています。具体的な内容はまだ固まっていませんが、この企業統治指針が導入されれば、スタートアップ企業も、投資家や取引先を中心としたステークホルダーからコーポレートガバナンス・コードに従った社内体制構築が要求されると思われます。

コーポレートガバナンス・コードの導入目的が成長戦略として位置付けられているように、企業が成長するためには経営の透明性を高める必要があると思います。確かに、事業の帰趨が判らないスタートアップ企業には、ガバナンスの考え方は不要かもしれません。しかしながら、会社法改正の趣旨がコーポレートガバナンスであり、時代の趨勢がそちらに向かっていることを考えますと、スタートアップ企業であったとしても経営の透明性を高めることは不可欠なのでしょう。