イノベーションは、新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす点で、非常に重要な要素と認識されています。アントレプレナーのみならず既存企業がビジネスを維持・拡大する上で、顧客の創造につながるイノベーションは最も重要な要素です。

イノベーションに関する本を色々読みましたが、イノベーションの本質は、20世紀初頭の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが主張している内容から大きく乖離しません。それは、イノベーションは「新結合」であることです。

シュンペーターは主著「経済発展の理論」の中で、イノベーションを「新結合」と表現しました。この概念のポイントは、従来とは異なった、全く新しい方法で生産要素を組み合わせるという点にあります。そして、シュンペーターは、イノベーションの5つ類型があるとしています。すなわち、(1)新しい製品・サービス、(2)新しい生産方法、(3)新しい販路、(4)原料・半製品の新しい供給源、(5)新しい組織形態です。したがって、シュンペンターの用法に従えば、技術革新が無くても、例えば、既存製品を新たな顧客に販売することを可能にすれば、イノベーションと言えるのでしょう。
この「従来とは異なる方法で生産要素を組み合わせることによりイノベーションが産まれる」という考え方は、ほぼ全てのイノベーションのついて語る論者が主張している内容です。例えば、「メディチ・エフェクト」と言う本では、ルネッサンス期のフィレンツェにおいては、様々な専門家が垣根を越えて集まることで、相互に影響を与えあい、技術や文化が飛躍的に発展した、としています。同書によれば、ジャンルやカテゴリーの枠を超えて、新たな接点を見出すことで次々と斬新なアイデア・イノベーションを産むことが出来るとしています。

このように考えると、イノベーションはアートであると考えられます。すなわち、アートの本質は、世界を独自の視点から認識し、それを表現することにあります。そして、イノベーションを従来とは異なる要素の「新結合」を見いだす点にあるとするのならば、それは既存の要素を独自の視点から認識し、それを具体的な製品・サービスの形で認識することを意味するからです。

これは、イノベーションは多数決や合意で決まるものではないことを意味します。したがって、会議室に閉じこもって、同じようなバックグラウンドを持つ数人で考えるだけでは、イノベーションを創出することは困難でしょう。「新結合」を見つけるためには、自分達とは異質なバックグラウンドを持つ人達と触れることにより、市場や顧客に対する見方の突然変異を起こし、新結合を行う要素を見つけることが重要と考えます。企業がイノベーションを真に起こしたいのであれば、多種多様な人材を受けれ、それを活用するための環境づくりが不可欠です。